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日本のTVドラマ、中国人留学生「気持ちが悪くなる」とは?

コラムY! 2009/04/17(金) 14:21
MAO的コラム 中国語から考える 第78回−相原茂 

  日本のテレビドラマを見ていると「気持ちが悪くなることがある」という。中国人留学生の台詞だ。聞き捨てならない。まあまあ、落ち着いて話を聞いてみる。

  とくに現代もののドラマなどで、よくあるのだという。

  今、緊急事態が発生していて手に汗にぎる場面なのに、それをわきにうっちゃって、そこだけ時間が止まったように、だらだらと個人の感情にまつわる話をはじめるのだそうだ。

  そう言われて思い当たった。

  刑事物や推理もののドラマで、今事件が起こっている。緊急事態だ。例えばあと30分で爆弾が炸裂する。主人公の刑事と犯人が対峙している。多くの人命が危機にさらされている。まさに山場だ。

  このときにぽっかりと、そこだけ時間がとまってしまったかのように、犯人の心情吐露がはじまったりする。背景はいつの間にか海を見下ろす崖の上だったりする。

「そうか、最愛の妻が警察のずさんな捜査で自殺においこまれたのか」

「一人息子を病院の医療ミスでなくしたのか」

「両親が悪徳金融業者にだまされ、その復讐か」

などなどだ。

  確かにそれで事件の背景がわかる。犯人のつらい過去がわかる。ようやく動機がわかり納得がゆく。見るものは犯人の側にも立つ事ができ、ドラマが重層的になる。

  しかし、こういった、ここぞと人の感情をあおるやり方に気分がめいるという。安易に人の情に働きかけてくるやり方が許せないのだという。確かに、ああ、またかと、日本人でも食傷気味になることがある。

  だが、社会派のドラマなどでは、こういう社会における矛盾の描写が欠かせない。泥棒にも三分の理という、そこを聞かねばならない。見終わって、やれやれ良かった、というだけではなく、われわれの住んでいる今の社会について深く考えさせられるというのが「社会派ドラマ」の趣旨だから、ある程度は仕方がない。

  そんな話を中国からの留学生に話しているうちに、思い到ったことがある。そもそも中国ではテレビなどで「社会の矛盾をつく」というドラマ作りは許されない。これが一つ。

  もう一つはもっと重要だ。中国では悪人は永遠に悪人なのだ。悪人に気を許してはならない、と教えられる。

  中国人なら誰でも知っている寓話がある。「農夫と蛇」という話で、小学1年生ぐらいの教科書に出てくる。

  ある冬の寒い朝、農夫が道ばたで凍えている蛇を見つける。哀れに思った農夫はそれを懐に入れ、暖めてやる。やがて蛇はめざめ、農夫にガブリと噛みつく。毒にあたった農夫は死ぬ間際にこういう。

  「決して悪人に哀れみをかけてはいけない」

  これだけの話であるが、ここには「悪は永遠に悪である」という単純な道理が語られている。ほかにも「東郭先生と狼」という話もある。猟師に追われている狼を助けてやったところ、かえって狼に食われそうになる話で、これも要するに悪人に哀れみをかけてはいけない、そんなことをすれば結局損をするのは自分だという寓話である。

  また中国のことわざに「世の中の鴉はみんな黒い」というのがある。これは悪人はみんなワルで、例外はないことを述べるものだ。だから、中国では悪人は死んでも悪人であり、その墓を暴かれ、唾棄される。

  しかるにわが日本では、たいていの悪人は死ねば、その先は罪を免じてしまう。死んだ人の悪口はあまり言わない。(拙著『感謝と謝罪』講談社による)

  日本でも「悪人は永遠に悪人だ」という設定になっているケースがないわけではない。たとえば時代劇だ。「越後屋」とか「悪代官」とか「火付け盗賊」とか、類型的な悪党を登場させ、わけも聞かずに切り捨て御免だ。ここでは「情に訴える」場面は出て来ない。越後屋は命乞いはするが、動機の説明はしない。

  ところが現代を扱うドラマになると、少し違ってくる。日本では、完全な悪はいないのだ。だれでも本当は善の心をもっている。それがたまたまねじ曲げられただけなのだ。性善説といってもよい。

  しかし、中国人のように「世の中のカラスはみんな黒い」というような教育を受けてきた人には、なるほど、悪人に弁解の機会を与えているかのような日本のドラマ作りは、まどろっこしくてしかたがない。

  そんなわけで、緊急事態にあたり犯人が言い訳をはじめ、それが人の情を安易にあおる。こういうケースに彼らはあまり接したことがないのだ。さっさと事件を解決してしまえばいい。犯人は有無を言わさずつかまえればよい。そう考える。

  アメリカの刑事アクションものでも、確かに日本のように「犯人が情をあおり」また同時に「犯人を情でさとす」のは少ないのではないか。私は映画をそうたくさん見ているわけではないが、そんな気がする。

  各国それぞれ「情」が入らないドラマはないだろうが、どういう「情」をどんなふうに取り込むか、それぞれのお国柄がありそうだ。(執筆者:相原茂)

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【執筆者】
相原茂(あいはら しげる)

中国語コミュニュケーション協会代表、オンライン中国語レッスン「Live China」アドバイザー。東京教育大学卒。NHKの中国語講座にも出演、日本における中国語教育の第一人者で、現在は中国語コミュニケーション能力判定テスト(TECC)を実施している中国語コミュニュケーション協会の代表として中国語教育の普及に尽力する。ホームページ「MAO的小屋〜相原茂の隠れ部屋〜」。

●著作(一部)
  • 現代中国語新語辞典(編集)(講談社、2007/05)書評
  • 講談社日中辞典(編集)(講談社、2006/03)
  • はじめての中国語「超」入門(ソフトバンク新書、2007/04) 書評
  • 「感謝」と「謝罪」−はじめて聞く日中”異文化”の話(講談社、2007/09) 書評
  • 笑う中国人 −毒入り中国ジョーク集(文春新書、2008/01) 書評
  • 北京のスターバックスで怒られた話―中国語学エッセイ集(現代書館、2004/06)
  • 国民的中国語教本 ときめきの上海(朝日出版社、2003/09)


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