トヨタリコール問題から広まる日本への憶測、中国人感情は複雑
このところ北京でも、トヨタの話でもちきりである。
「豊田狂修車」という、思わず身を引いてしまうような見出しが連日、新聞を飾る。中国中央テレビは、豊田章男社長のお詫び会見を重ねて映す。そして中国はもとより、欧米から東南アジアまで、世界中のトヨタ関係者及び消費者にインタビューして回る大特集を組んだりしている。
今回のトヨタ事件に関する中国人の感情は、なかなか複雑である。それでも私なりに分析すると、以下の4つの想いが輻輳しているのではないか。
第一に、「あの巨竜が、なぜ?」という驚愕の反応である。
中国でトヨタのイメージは、巨竜である。中国人は大=善という発想をするので、数年後には年間100万台の生産態勢が整う世界のトヨタを、尊敬の念を込めて巨竜に見立てている。そのトヨタドラゴンが、今回一体なぜ? と頭をかしげてしまうのである。
中国におけるトヨタ最大の工場は、天津の濱海新区にある。昨年末に視察に訪れたが、その巨大さに圧倒された。朝8時過ぎ、トヨタ工場の前に、160台の大型バスが、一斉に停車する。そこからずらずらと5000人の従業員が降りてきて、白い息を吐きながら黙々と通勤する様は、実に壮観だ。
天津濱海新区を統括するTEDA(天津経済技術開発区)の幹部が解説してくれた。
「現在、計238社の日系企業がこちらに進出していますが、トヨタとトヨタ以外に区分できるほど、トヨタ1社が他社を圧倒しています。トヨタは2001年に進出して以来、サムソンやモトローラなどを引き離し、TEDAに工場を持つ企業の中で、年間売上げナンバー1の座を維持しているのです」
第二に、アメリカ陰謀説である。
現在、中国とアメリカは、国交正常化以来丸30年で最悪と言えるほど、関係が悪化している。まるで小泉政権時代の日中関係のような「政冷経熱」状態である。オバマ大統領のダライ・ラマとの面会決定、台湾へのパトリオットミサイル売却、対中報復高関税の連発という「3点セット」で、中国は完全にブチ切れてしまった。
そんな中、今回のトヨタ騒動である。政府が企業の命運を握っている社会主義国家・中国においては、「米ビッグ3を復活させるために、米政府がトヨタ苛めを始めた」という発想は、非常に説得力を持つのである。
第三は、逆にトヨタの陰謀説である。
アメリカでは1日5万台も修理し、日本やヨーロッパでも同様だというのに、中国のトヨタはなぜ、リコールを実施しないのか。それは、日本政府がトヨタを使って、中国全土で交通事故を頻発させて、中国の国力を貶めようとしているからではないか、という荒唐無稽な論理である。日本人からすれば、「何を戯けた妄想を」と思うが、平時から反日の炎を心に燻らせている一部の中国人は、自ずとこのような発想をするのである。
そして第四に、日本沈没である。
先月、日本航空の破綻が発表された時、中国メディアは、JALの機体の赤い鶴のマークを大写しにし、「日本の象徴の死」と報じた。そして今回、飛行機に続いて自動車の「日本の象徴」が失墜した。はて、日本はこのまま沈没していくのか、と、中国人が思い始めているのである。そして日本沈没論の後に起こるのは、「アジア全体が大変なことになる」「いや、中国が日本に取って変わる吉兆だ」といった議論である。
ともあれ、中国におけるトヨタ問題は、車の部品と同じくらい複雑なのである。(執筆者:近藤大介 明治大学講師 編集担当:サーチナ・メディア事業部)
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