宇宙へ向かう中国軍〜日本をカバーする衛星ナビは2012年

  2010年1月17日に、中国は「長征3号」ロケットを使って1基の人工衛星を打ち上げた。これは、中国が独自に整備を進めている衛星ナビゲーションシステムである「北斗」を構成する人工衛星である。

  近年、中国人民解放軍は「情報化条件下の局部戦争」での勝利を目指して、軍の情報化の推進に邁進している。個別兵器の能力を強化するだけではなく、高度な情報通信技術に依拠した指揮・通信システムや偵察能力、兵器誘導能力などを強化しなければ、現代の戦争に勝利することは難しいからである。

  軍隊の情報化を進めるにあたってきわめて重要な分野のひとつが、宇宙空間の軍事的活用である。米軍の高い戦闘能力が、情報通信衛星や偵察衛星、早期警戒衛星などによって支えられていることはつとに知られている。軍の情報化を目指す中国にとっても、宇宙への進出は喫緊の課題である。昨年11月に行われた空軍創立60周年を記念した行事で挨拶した許其亮空軍司令員は、中国空軍の新たな戦略として「空天一体」を提起した。すなわち空軍の建設や運用に際しては、航空(空)と宇宙(天)の一体化を前提とするということであり、空軍を中心に人民解放軍が宇宙における軍備拡張を進める意向を明確化したのである。

  「北斗」の構築は、空天一体化を目指す中国軍にとって最重要のプロジェクトである。現在、衛星ナビゲーションシステムとしては米国のGPS、ロシアのGLONASS、EUのGalileoの三つがあるが、中国は「北斗」の構築によってこれらに肩を並べることを目標にしている。「北斗」は自国領域を中心とした範囲をカバーする第1段階の構築をすでに終えており、現在は2012年の完成を目指して、アジア太平洋地域全域をカバーする第2段階の整備を進めている。最終的には、全地球をカバーするシステムを2020年までに完成させる予定である。

  中国側の報道によれば、「北斗」システムでは地上で四つ以上の衛星から同時に信号を受信して正確な位置を計算することが可能であり、さらにショートメッセージの送受信機能も提供されるという。「北斗」は民生分野での活用も想定されているが、国防分野では統合作戦の指揮、戦場の状況把握、精密攻撃、情報偵察などの面で重要な役割を発揮することが期待されている。第1段階の「北斗」システムはすでに6年余り運用されているが、国境防衛や作戦指揮、訓練・演習、兵站活動、災害救援などの軍事活動に活用されているという。

  09年10月の軍事パレードにおいて中国は、射程が2000キロを越えるとも言われる巡航ミサイルの長剣10を登場させた。巡航ミサイルは遠距離における目標に精密攻撃を加えるための代表的な兵器であるが、その命中精度は衛星ナビゲーションシステムを中心とした誘導技術に大きく左右される。中国がアジア太平洋地域をカバーする「北斗」を完成させれば、有事にGPSなど他の衛星ナビゲーションシステムの使用が制限されたとしても、中国は長剣10の安定的な運用が可能となる。2012年、日本はこの「北斗」システムのカバーの下に置かれることになる。(執筆者:飯田将史 防衛省防衛研究所  編集担当:サーチナ・メディア事業部)

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