日米コミュニケーションギャップの原因

コラム2010/09/14(火) 11:04 
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  前回のコラムで、異文化の人々とコミュニケーションを行なう場合には、文化によって名詞や形容詞の意味が変わることに注意を払うべきであると、いろいろな例を挙げながら説明した。これは何も名詞や形容詞に限られる話ではなく、他の品詞にも言えることである。いったいなぜ使用される言葉の意味は文化や人によって変わってしまうのであろうか?

  文化や社会、また宗教や慣習などの違いが原因であるといえるが、それよりも、その答は「言葉の意味は、使われる言葉にはなく、その言葉を使う人にある」という一般意味論の命題にあるという方が妥当であろう。「意味は、その言葉にはなく、人にあり」ということを示すよい例があるので、それを紹介しておこう。「英語で最も一般的に使用される500語には14、070もの辞書的意味があり、これは1語あたり平均して28の意味があるということになる。たとえば、setという単語には194もの異なる意味がある。単語そのものには意味が含まれておらず、人が自分たちの過去の経験に照らして意味を与えているのである」(Roebuck、 D.B.、 Improving Business Communication Skills、 N.J.、 Prentice Hall、 Inc.、 1988、 p. 5.)という。

  一つの言葉にそれほど多くの意味があり、その上に、それを使う人が過去の自分の経験から意味を与えているとするならば、日米ビジネスコミュニケーションギャップがなぜ起きるのか、という問題の答も当然そこにあるといえる。たとえば、difficultという英単語は、日米コミュニケーション上の問題として、過去半世紀近くにわたり、多くの米国人また日本人の識者によってしばしば取り上げられてきている。私自身の調査でも、収集した多くの米国人マネージャーの声の中にまったく同じ問題がみてとれて興味深い。

  もし米国人同士によるビジネス上の会話でこのdifficultという単語が使用された場合、その意味は、まだまだ両者の間に交渉の余地あり、ということを意味するといわれる。それを発言した側からすれば、もしよりよい条件の提示があれば、交渉を続行しようではないか、という意思の表明であると意味付けられるのがふつうであるという。すなわち、英語のdifficultは実際にはdifficult but possible(難しい、でも可能)を意味するといわれる。

  それに対して、日本語の「難しい」はどうであろうか?私自身の24年間にわたるビジネスマン生活の経験からも、日本人ビジネスパーソンが「それは難しいですね」と言った場合、その意味は例外なく「それはほぼ不可能ですね」ということであった。すなわち、日本人にとっての「難しい」は多くの場合、difficult and impossible(難しい、そして不可能)を意味するといえよう。

  面白いことにこれは何も日本にだけ特有の言語事情というわけではなく、多くのアジア諸国の人々にも同じようなことがいえる。アジアの多くの人々は、欧米人のようにあけすけに、また直接的にノーといえない性格をしているために、「それはできない」といわず、婉曲的な表現である「それは難しい」と言ってしまう、といわれている。It’s difficult.(難しい)という英語表現は、日本人にとっては不可能(No)を意味し、米国人には多分(Maybe)を意味する。そこから、日本人ビジネスパーソンが「その申込は不可能だ」と言う意味でIt’s difficult.と言い続けても、米国人は、「オーケー、それではどこをどうすれば可能になるのか」と執拗に食い下がってくるという状況を生み出すことになってしまう。米国人との交渉にはこのあたりに気をつけて臨むべきである。

  さて、10月23日と24日の両日にわたり国際ビジネスコミュニケーションの第70回記念大会が関西学院大学で開催されるが、下記の学会ウエブサイト内の「全国大会」のコラムにある「全国大会プログラム」と美麗な「全国大会シンポジウム」をぜひご高覧のうえ、ご参加いただきたい。また、同時に『国際ビジネスコミュニケーション』が丸善(株)から出版されるが、ご購読いただければ幸いである。(執筆者:亀田尚己 同志社大学商学部・同大学院商学研究科後期課程教授  編集担当:サーチナ・メディア事業部)

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